「映画監督で、ミュージシャンで、小説家」。そんな肩書きを持つ甫木元空(ほきもと そら)さんを、最近ニュースで目にした方も多いのではないでしょうか。
女優・夏帆さんとの結婚、そしてあいみょんさんの楽曲『ざらめ』のMV監督。華やかな話題が続く一方で、その作品の根っこには「家族を失った経験」が深く流れています。
この記事では、甫木元空さんの家族(父・母・祖父)とのエピソードを中心に、バンド「Bialystocks」やあいみょんさんとの関係についてまとめました。
甫木元空のプロフィール|映画と音楽を行き来する表現者
- 名前:甫木元空(ほきもと そら)
- 生年:1992年
- 出身:埼玉県(越生町育ち)
- 学歴:多摩美術大学 映像演劇学科
- 活動:映画監督、バンド「Bialystocks」ボーカル、小説家
代表作は映画『はるねこ』『はだかのゆめ』『BAUS 映画から船出した映画館』など。
ジャンルをまたいで活躍する人は珍しくありませんが、甫木元さんの場合はどの作品にも「家族」の気配が色濃く残っているのが特徴です。その理由は、生い立ちを知るとよくわかります。
甫木元空の家族① 父は舞台演出家|遺されたホームビデオ
甫木元さんの父親は、舞台演出家・劇作家でした。
幼いころから両親の創作現場に立ち会っていたことで、「表現すること」へのハードルがとても低かったといいます。家の中に、作ることが当たり前にある。うらやましい環境ですよね。
しかし、大学3年生のころ、甫木元さんは父親を亡くしています。
ちょうど恩師である映画監督・青山真治さんの影響で、映像制作を本格的に始めた時期でした。
そこで彼が手に取ったのが、父親が幼い自分を毎日撮りためていた膨大なホームビデオ。その映像を編集し直し、現在の自分が歌を重ねる形で“父との対話”を試みたのが、卒業制作『終わりのない歌』(2014年)です。
個人的に、ここが一番胸を打たれるポイントでした。カメラの向こうにいた父の眼差しを、今度は息子がカメラで受け止め直す。亡くなった人と、映像を通して会話を続けているように思えるんです。
また、父を亡くした直後に「一番素直な気持ちで書いた」という楽曲『夜よ』を、甫木元さんは「人生の転機」として挙げています。
甫木元空の家族② 母はピアノ講師|高知・四万十への移住
母親はピアノ講師・作曲家。自宅でピアノ教室や合唱団を開いていて、甫木元さんにとって音楽の原点ともいえる存在でした。
父の死からほどなくして、今度は母親に余命宣告が告げられます。
甫木元さんが選んだのは、母の故郷である高知県四万十町へ移り住むこと。そこで母の闘病を見守りながら、母や祖父が日々こぼす言葉を書き留めていきました。
その記録が骨格となって生まれたのが、映画『はだかのゆめ』(2022年)です。虫の音や川の流れといった自然の音を丁寧にすくい上げ、生きている人と亡くなった人の境界がにじむような作品に仕上がっています。
20代で両親を相次いで見送る——言葉にするとあまりに重い経験です。それを作品という形で“弔い”に変えていく姿勢に、表現者としての覚悟を感じずにはいられません。
甫木元空の家族③ 祖父・甫木元尊英さんと恩師・青山真治
四万十で江戸時代から続く甫木元家のお墓を守ってきたのが、祖父の甫木元尊英さんです。
尊英さんは『はだかのゆめ』に本人役として出演。土佐弁で語るその姿は、作品に力強い生命感を与えています。孫が撮る映画に、おじいちゃんが出る。なんだか温かい話ですよね。
そしてもう一人、血のつながりはなくとも“家族”に近い存在が、恩師の青山真治監督です。
甫木元さんの才能を見出し、デビュー作『はるねこ』をプロデュースした青山さんは、2022年に急逝。その青山さんが温めていた脚本を引き継いで完成させたのが、染谷将太さん主演の『BAUS 映画から船出した映画館』(2024年)でした。
父、母、そして師匠。大切な人から受け取ったものを、作品で次へつないでいく。甫木元さんの歩みは、その繰り返しなのだと思います。
妻・夏帆との結婚|公私を共にするパートナー
そんな甫木元さんに訪れた明るいニュースが、女優・夏帆さんとの結婚です。
夏帆さんは映画『BAUS』やBialystocksのMVにも出演しており、仕事を通じて信頼を深めてきたお二人。創作活動を共にするパートナーとして、これ以上ない相手ではないでしょうか。
家族を見送り続けてきた甫木元さんが、今度は新しい家族をつくる。ファンとしては、心から「おめでとうございます」と伝えたくなります。
バンド「Bialystocks」とは?
甫木元さんが音楽活動の軸にしているのが、2019年結成のバンド「Bialystocks(ビアリストックス)」です。
きっかけは『はるねこ』の生演奏上映会。そこに集まったミュージシャンの中から、ピアニスト・アレンジャーの菊池剛さんとの2人組に落ち着き、2022年にアルバム『Quicksand』でメジャーデビューしました。
甫木元さんの素朴でフォーク調のメロディに、ニューヨーク留学を経てジャズを学んだ菊池さんの洗練されたアレンジが重なる。この組み合わせが、唯一無二の音を生んでいます。
甫木元さんは「映画でしか語れないこと」と「音楽でしか伝えられないこと」をはっきり分けて考えているそう。映像で言葉にできない感情が、歌になっているんですね。
あいみょんとの関係は?父親や弟のエピソードも
甫木元さんとあいみょんさんをつないだのは、俳優でDISH//のボーカル・北村匠海さんでした。
実は最初にBialystocksを見つけたのは、北村さんの弟。それを聴いた北村さんが「もの凄く良いバンドがいる」とあいみょんさんに紹介したのが始まりです。
あいみょんさんは、甫木元さん自身が監督した『差し色』のMVに驚き、2024年の楽曲『ざらめ』のMV監督を直接オファーしました。
MVでは、あいみょんさんが5人の異なる人物を演じています。
「なりたい自分、汚れた自分、取り繕う自分といった、様々な自分と対峙しながら本当の自分を探しているような感覚になった」(あいみょん)
現場では、あいみょんさんが甫木元さんを「ほきも」と呼ぶほど打ち解けたそう。待ち時間にあいみょんさんが『差し色』を口ずさむと、モニターの奥から甫木元さんが現れて一緒にハモり、スタッフに「監督、遊んでないで戻ってください」と連れ戻された——なんて微笑ましい一幕もあったといいます。
ちなみに、あいみょんさんも家族から大きな影響を受けたアーティストです。父親はPA(音響)の仕事をしていて、浜田省吾さんやビートルズを教え込まれて育ちました。6人きょうだいの次女で、弟が3人いる大家族。
家族の喪失を作品にしてきた甫木元さんと、大家族の日常を歌にしてきたあいみょんさん。正反対に見えて、「家族から受け取ったものを表現に変える」という点ではとても似ている。だからこそ、あれほど自然に響き合えたのかもしれません。
その後、FM802『MUSIC FREAKS』でも北村さんを交えて対談が実現しています。
まとめ
- 甫木元空さんの父は舞台演出家。遺されたホームビデオが卒業制作『終わりのない歌』に
- 母はピアノ講師。闘病を見守った高知・四万十での日々が『はだかのゆめ』の原点
- 祖父・甫木元尊英さんは『はだかのゆめ』に本人役で出演
- 女優の夏帆さんと結婚、創作でも支え合うパートナー
- バンド「Bialystocks」で菊池剛さんと音楽活動
- 北村匠海さんの紹介であいみょん『ざらめ』のMV監督に
悲しみを抱えたまま立ち止まるのではなく、それを作品に変えて誰かに届けていく。甫木元空さんの映画や歌がどこか優しく聴こえるのは、きっと家族から受け取った愛情が、そのまま息づいているからなのでしょう。
夏帆さんと築く新しい家族のもとで、これからどんな作品が生まれるのか。楽しみに見守っていきたいと思います。








